'Tis Not Eaten When Rotted.


3日目は、みごとに寝坊した。
とはいっても、まだ空は白み始めたばかり。
まだ彼はいるかもしれないと、少年は今日も部屋を出て行く。

4、霧の音

家のドアを勢いよく開け飛び出したシュエルだが、思わず立ち止まってしまう。
朝日の気配を感じるはずの蒼の世界は、想像よりも視界が悪い。
町並みも霞んでぼんやりして見える。遠くの家の明かりが、ぼうっと幻想的に
闇に浮かんでいる。どうやらあたり一体、霧が立ち込めているようだった。
それがわかると、空気がなんとなく、ひんやりしているように感じる。
もっと明るくなれば、霧はもっとはっきりとわかるようになるだろう。
シュエルは歩き出した。この時間になると、人の営みを感じるようになる。
朝早くでかける人たちなのか、いくつかの家の窓から光が漏れている。
それらの家の前に差し掛かると、ずっと静かな家もあれば、水の流れる音などが、
聞こえてくるところもある。それぞれの家に、それぞれの音。それまでの二日間には
なかった安心感に、シュエルは気づく。人の存在が、こんなに落ち着くものなのかと、
改めて思う。人の気配を感じながら、けれど、誰とも会わず、街の外れまでたどり着く。
  丘に生える草は、朝露を抱えている。蹴り上げた葉の先から、小さな雫がはね、
足首をぬらす。それに構わず、軽く小走りに丘を登りきり、今日も海のほうを見下ろす。
だいぶ明るくなってきている空と反対に、視界は悪く、海も林もかすんでいる。
そういえば、今日は風がない。
あの風は、あの時間に特有のものなのか、それとも、たまたま吹いていただけなのか、
シュエルにはわからない。ただ今は立ち込める霧のせいもあってか、空気がひっそりと、
その場に佇んでいるような感じがする。その空気を動かすようにして、シュエルは
丘を下りはじめる。霧の中から歩くに従って、浮かび上がってくる次の景色。
それが、草むらから林の木々になり、最後に、海になる。
木々と霧を抜けシュエルの前に広がるのは…
誰もいない海だった。
霧の向こうを、目を凝らして見てみるけれど、人の影は見つからない。
あの少年がいた辺りへ行っても、彼の姿はなかった。
ただ、砂浜に林のほうへと向かう足跡が残っている。
遅かったんだな…
シュエルは思った。多分これはあの少年のものだろう。林から海の方へ振り返れば、
家を出たときよりもあきらかに、空は明るくなり、霧の白がはっきりしてきている。


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