'Tis Not Eaten When Rotted.
2-2
丁寧に紡ぎだされる歌声と、織りあがっていく歌の世界。
そこにシュエルが入り込める綻びはなかった。シュエルは黙って、歌声の持ち主に
気づかれないよう、佇んでいた。目を閉じると、心の中に歌が広がっていく。
色彩は青か、緑。自然の色。そのうえにうっすらと白の粒子が霧のように重なる。
ゆったりとしているけれど、とてもとても、さびしい歌。深さと、静けさ。
時折現実の波の音に、歌がかき消される。海のような歌なのに。繰り返される旋律は、
海の波のようで明らかに違う。風が吹く。強すぎない風は、この歌にはよく似合う。
なんだかこの歌は、風景のよう。けれどどこの風景なのかは想像できない。
彼はどこか別のところから来たのかもしれない
なんとなく思った。シュエルの知らない所から来て、その場所の歌を、
歌っているのかもしれない。
ふるさとの歌?
ふと、歌が途切れ、シュエルは目を開けた。闇がよみがえり、暗い中にいたことを思い出す。
視線の先、歌をやめた少年は、頭をたれ、じっとしていた。後姿は、痛々しい。
その姿は泣いているようにも見える。
シュエルは、見てはいけないところを見てしまったように思い、申し訳ない気持ちになる。
今日は駄目なんだ。シュエルの心にぽっと、あきらめの灯。
悲しみが、少年の背中に浮かんでいる。
今の自分では、触れてはいけないことを感じていた。
別にかまわない、明日だってある。
後ろ髪を引かれるようだったが、シュエルは静かに踵をかえす。
林に入る前に、一度後ろを振り返ると、少年はまだそのままの姿勢だった。
あの歌も、今の姿も、なにが彼をあんな風にさせるのか…シュエルは不思議に思った。
彼の見ている景色を自分も見てみたいと思いながら、
同時に、一緒に笑えたらいいのにとも考えていた。
海で泳いだり、丘で競争したり、林を探検したり。
昨日の冷たい態度も、今日の悲しい姿も、シュエルの知っている楽しい世界を
知らないのではないかと思わせる。
いつかきっと、すぐには無理かもしれないけれど、楽しい時間をともに過ごせたら…。
遠くなった少年の後姿に、声に出さずに挨拶をして、
シュエルは林の中へと、入っていった。
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3、風の道へ
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