'Tis Not Eaten When Rotted.
0-1

白い雲に包まれた、直方体の白い空間。
コントラストの弱い部屋の中に、そのぼんやりした空気に溶けてしまいそうな白い少女が一人。
髪の柔らかい金髪と、頬に浮かぶ朱が、部屋にひっそりと色彩を与えている。
少女は床に寝そべり、白く半透明の床の向こう、眼下に広がる「世界」を見ている。
彼女の目に映るのは、春の景色。色とりどりの花畑、萌え始めた緑と 晴れ上がる空を映した海、
カラフルな町並み、それらが作り出す鮮やかなパッチワーク。
丘から海へとつながる道をかけて行くのは、子供たち。
少女の長いまつげの奥、穏やかな茶色が、物憂げにその姿を見つめている。
薄く開いた唇からは、今にもこぼれそうな小さなため息。 頬杖をついたまま動かない様子は、精巧な人形。

どこからかいつの間に、少女と同じように白い少年が、部屋の中にたたずんでいた。
可憐な人形は彼に気づかず、音のない時間はただ過ぎてゆく。
彼もしばらく、彼女と同じ景色を、冷ややかな目で眺めていた。 深く暗い瞳の奥に、何があるのかはうかがえない。
静けさを壊したのは、彼だった。
*「あいかわらずだな」
声は響かず、あいまいな空間に吸い込まれてしまう。すぐに静けさが戻ってくる。
少女は小振りな頭を、ゆっくりと持ち上げた。目が彼の姿を捉えると、表情を変えずじっと彼を見つめる。
「どうしたの?」
彼女の細い声も、また同じ運命。
*「乱れていると思って」
「私?それとも「世界」?」
少女は体を起こし、床に座る。
*「…両方」
「そう」
少女の表情は変わらない。彼女の気持ちをさぐるように、少年は続ける。
*「少しだけだけど…」
その瞬間、何かに満足したように、彼女の顔に微笑が浮かび上がる。
「世界はわからないけれど…」
*「そうか」
少年は、視線を足元へとそらした。


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